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記録し、振り返り、少しずつ変える

研究は、ゴールが曖昧で、いつまでも続けられる仕事です。指導教員が一日中横に座って指示を出してくれるわけではないので、自分で自分を観察して舵を取り直す力が、そのまま成果を左右します。博士課程以降、周りからの具体的な指示が減ってくるほど、この力が効いてきます。

計画の立て方と進捗管理で扱ったのは、進行中の計画を軌道に戻すための短い周期の話でした。ここで扱うのは、もっと長い周期で、自分の時間の使い方のパターンそのものを見直す話です。

主観と実態は、思った以上にズレる

最初にやってほしいのは、自分が時間をどう使っているかを、見える形で記録することです。

人は主観で「今日は頑張った」「全然できなかった」と判断しますが、その感覚は実態とかなりズレています。午前中は研究に集中するつもりだったのに、結局メールと雑務で終わっていた。集中して書けたつもりだったのに、ログを見ると実質一時間しか書いていなかった。心当たりがあるはずです。

道具は何でも構いません。手帳でも、カレンダーでも、タスク管理アプリでも、紙のノートでも。大事なのは、後から「自分の一週間はどう使われたか」を眺められる状態にしておくことです。僕も研究を始めた頃は記録をほとんど取らず、「なんとなく頑張った気がする」だけで一年が過ぎました。一週間分のログを残し始めて、初めて自分が思っていたより会議に時間を吸われていることに気づきました。

ログを取り続けていると、しばらくして自分の癖が見えてきます。文献を読むのは午前中じゃないと頭に入らない。ゼミがある日の午後は、書く作業より図を描く作業のほうが進む。人によって出てくる癖は違います。これは弱さではなく、自分という個体の仕様の話で、仕様に逆らった働き方をしていると、同じ時間をかけても産出は伸びません。振り返りの本当の見返りは、その日の効率化より、 自分の仕様書が少しずつ手元に育っていくこと のほうにあります。

責めるのではなく、問いかける

記録が二週間ほど溜まったら、そこに問いを投げます。なぜそうなったのか。他にやりようはなかったか。自分はどんな作業に時間を吸われやすいのか。

ここで大事なのは、責めるのではなく問いかける、という態度です。集中できなかった時間帯があったとき、「なぜダメだったんだ」と責めるのではなく、「どうすれば次はもっと集中できるだろう」と聞き直す。やるべきでなかった雑務に時間を取られていたなら、そもそも断れなかったか、省略できなかったかを考える。

振り返りは反省会ではなく、次の行動のための仮説を立てる場です。反省会のモードに入ると、自分を責めることが目的化して、行動は変わりません。仮説のモードに入れば、観察した事実は責める材料ではなく試行錯誤の材料になります。

続けられる粗さで

長く立派な振り返りを月に一度書くより、雑でもいいから毎日数行のメモを残すほうが効きます。

僕は一日の終わりに、予定通りに進んだところ、ズレたところ、その理由を三行から五行で書いています。寝る前にこれを書くと、翌朝、机に向かったときの動き出しがスムーズになる、という副次的な効果もあります。

もう少し細かくやる日は、その日のタスク状況を冒頭に書いておいて、思い立ったタイミングで、いまの時刻といまやったことを書き連ねていきます。

09:42 メール処理、返信3件
10:05 ○○論文の関連研究セクション、書き直し開始
10:38 いったん止めてコーヒー。少しぼーっとする
11:10 戻ってきて、図のラフを書き直し

ルールはありません。書き忘れた時間帯があっても気にしない。感想を挟んでもいいし、浮かんだアイデアを書き殴ってもいい。フォーマットを守ろうとせず、忘れてもよいという緩さで運用するのが続けるコツです。やってみると、「気がついたら三十分動画を観ていた」というような取りこぼしも、書こうとすると素直に目に入ってきます。

一度に一つだけ変える

観察したら、次は変えてみる段階です。ここで陥りがちなのが、学期の合間に大きな反省をして立派な計画を立て、数週間でもとのパターンに戻る、というやり方です。これは意志が弱いからではなく、改善を単発のイベントとして扱っているからです。

やることは、小さな変更を試して効果を見ることです。午前中に頭を使う作業をまとめてみる。SNS を見る時間を夕方に固めてみる。昼食後の三十分に仮眠を入れてみる。研究室で書く日と家で書く日を分けてみる。どれも地味ですが、自分に効くかどうかはやってみないと分かりません。

試したら短くメモを残します。「午後の集中度が上がった」「昼食後の作業は不向きだった」。こういうメモが半年も溜まると、自分専用の「何が効くか辞典」ができます。市販の時間管理術より、あなたの研究生活に役立ちます。あなた自身を被験者として得たデータだからです。

ここで守りたいのは、 変更を一度に複数入れないこと です。三つも四つも同時に試すと、何が効いたのか分からなくなります。実験計画と同じで、変数は少なく、観察期間は短すぎず。

改善疲れとツール沼

完璧主義の人ほど、最適解を求めすぎて何も変えられなくなります。あるいは、手法を片っ端から試すこと自体が負担になり、本業が止まります。新しい時間管理アプリを試したくて設定に半日溶かし、その日は研究がほとんど進まなかった、というのが典型的なツール沼です。

僕も、学生の頃からいろいろ試してきました。標準の ToDo、流行りのタスク管理サービス、ポモドーロタイマー、ホワイトボード系のツール。乗り換えを繰り返した末にたどり着いたのは、オフラインの Markdown ツールを中心にした、地味でシンプルな構成でした。カレンダーは OS 標準で十分です。ポモドーロタイマーは、自分のリズムに合う形が欲しくて自作しました。

目安としては、七割の改善でよしとする、くらいのゆるさがちょうどいいです。残りの三割は次の機会に回せばいい。自分の働き方も研究と同じで完成しないので、完成させようとしないのが続けるコツです。

改善のタイミングは、カレンダーに予約しておくと続きます。週末の三十分、月末の一時間、四半期の終わりに半日。気が向いたらやる、では回りません。

他者の目を入れる

自分のパターンを自分で発見するのには限界があります。バイアスがかかっていますし、慣れてしまって違和感を持てない部分もあります。

同僚と雑談しているなかで「それ、午前にまとめた方がよくない?」と言われて、自分の癖に気づいた経験が何度もあります。自分の中では当たり前だと思っていたパターンが、外から見ると最適化の余地だらけだった、ということは珍しくありません。研究室の進捗共有で、進捗だけでなく「今週の働き方でよかったこと、悪かったこと」を一言ずつ言うだけでも、場の空気は変わります。

ツールも習慣も、自分を縛るためではなく、自分を自由にするための道具です。派手な革新はめったに起きませんが、小さな観察と更新を続けていれば、五年後のあなたは、いまより広い視野で時間を扱えているはずです。