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日々の記録を残す

締切から逆算して週のタスクに落とす、ズレに気づいて計画を直す――そうした計画づくりと進捗の見直しは 第4部:計画を立て、ズレに気づく にまとめました。この節では、その計画の下を流れていく日々を、どう記録に残すかを扱います。

研究室に入って最初に身につけてほしい習慣をひとつだけ挙げるとしたら、僕は迷わず 毎日の記録 を挙げます。派手さはまったくありませんが、これをやっている学生とやっていない学生とでは、一年後に手元に残っているものがまるで違います。

研究ノートに何を書くか

実装で詰まった箇所のメモ、被験者の発話で印象に残った一文、システムの挙動を観察していて気づいたこと、関連研究を読んで触発された連想、失敗したパイロットスタディのときに何が起きていたのか――こういうものを、ノートやリポジトリのコミットメッセージに残しておきます。

最初は「こんなつまらないこと、記録する意味があるのか」と思うかもしれません。実際、書いている最中の手応えは、ほとんどゼロに近いことが多いです。

でも、後から見返すと、重要なヒントがそこに隠れていることが本当に多い。失敗したプロトタイプのメモから、次のシステム設計の中核アイデアが生まれたり、被験者の何気ない一言として書き留めただけのフレーズが、論文の重要な論点に化けたり、半年前の自分の問いが、今の研究の出発点だったと気づいたり。 記録は、未来の自分への手紙 のようなものです。

形式は紙のノートでもテキストファイルでも構いませんが、置き場所だけは一か所に決めてください。日によってノート、Slack、頭の中、と散らばると、半年後に探せなくなります。探せない記録は、無いのとほとんど同じです。

実験や分析は、やり直せるだけ書く

実験や分析の記録には、日々のメモとは別の要求があります。半年後の自分が、同じ手順をもう一度踏めるかどうか。これが基準です。

書いておきたいのは、いつ、どんな条件で、何を使って、何が起きたか。使ったデータのバージョン、パラメータの値、コードのコミットハッシュ、機材の設定、参加者の人数と属性。そして、うまくいかなかった試行です。最後のものが特に抜けがちで、しかも一番効きます。失敗した条件は論文には書かないことが多いので記録からも落としてしまいがちですが、落とすと「あれ、この条件は試したんだっけ」と、同じ場所を二度踏むことになります。

再現性を担保するための作法そのものは、第5部:データ収集・分析と再現性 で扱います。ここで言いたいのは、その作法の土台が、日々の面倒な書き留めにあるということです。

心の進捗も書き留める

記録するのは、手を動かした結果だけではありません。あなたの理解度、疑問、モチベーションの状態――こうした 心の進捗 も、研究にとっては立派な進捗です。

今週、論文を読んでいるなかで「あ、ここは前より深く読めるようになった」と感じたなら、それは確かな進歩です。実装は進まなかったけれど、自分の問いの解像度が上がったなら、それも進歩です。逆に、タスクは消化しているのにやる気が落ちているなら、それは拾っておくべき情報になります。

だから僕は学生に、今日分かったこと、面白かったこと、引っかかったこと、やる気が落ちた日の原因、誰かと議論して得た新しい視点を、数行ずつ残しておくことを勧めています。こういう記録を続けていると、ノートそのものが、自分の研究の伴走者のような存在になります。半年たって読み返すと、「あ、あのとき自分はこう考えていたのか」と気づく瞬間が必ずやってきます。

今日やったことを、三行で

一日の終わりに書くものは、長い文章である必要はありません。今日やったこと、そこで分かったこと、明日の最初の一手。この三行で十分です。

三つ目が、地味に効きます。翌朝、机に座ってから「さて何をしよう」と考える時間がなくなり、そのまま手が動き出せる。前日の自分が段取りを済ませておいてくれる感覚です。

そして、この三行はそのまま人に見せられる形にもなります。ゼミの前に「進んだこと・止まっていること・次にやること」を報告する研究室は多いと思いますが、毎日三行を残していれば、その準備はほとんど終わっています。指導教員との打ち合わせも同じです。記録は自分のために書くものですが、ついでに他人と共有する材料にもなる。

進捗を数字だけで測らないでください。あなた自身が変化したかどうか。それもまた、立派な進捗の一部です。