採択・リジェクトから学ぶ
「やっと採択された!でもこれで終わりじゃないのか」「リジェクトされて気力が湧かない」――査読結果はどちらであっても、その日の気分に大きく響きます。ただ、結果が出た日から先には、感情とは別に片付けるべき実務があります。ここでは採択後の校正、リジェクト後の読み直し、投稿先の選び直しという、結果を次につなげる作業のほうを中心に書きます。落ち込みとの付き合い方そのものは 第3部:査読・フィードバックを受ける にまとめました。
採択後の校正刷りを点検する
採択通知が届いた日は、ちゃんと喜んでいい日です。共著者や応援してくれた人に連絡して、区切りをつけておく。研究は成果が出るまでの時間が長いので、こういう節目を素通りすると息が続きません。
そのうえで、送られてくる校正刷り(プルーフ)には、想像以上に誤字や図表の乱れが潜んでいます。「もう通ったから」と油断せず、最後まで細部に目を通します。見るべきところは決まっていて、誤字脱字、引用番号のずれ、図表の解像度とキャプション、共著者の所属情報や連絡先、数式の表示崩れ、参考文献の抜け、そして謝辞と助成金番号。出版されてしまえば訂正には公式な手続きが必要になるので、ここが本当に最後のチャンスです。校正の段階で見落としたミスを出版後に直そうとしてやけに苦労した経験が僕にも何度かあって、いまでは校正刷りを二日かけて読み返すのを習慣にしています。
論文が公開されたら、所属機関のページ、SNS、学会発表などで成果を届けにいきます。ただし、誇張せず、限界も添えて伝えること。「この技術ですべてが解決する」みたいな煽り方をすると、一時的に注目されても長期的な信頼を失います。発信の具体的な技法は 研究を社会に伝える で扱っています。
リジェクトのコメントを読み直す
リジェクト通知が来た日は、落ち込んでいいと思います。無理にポジティブに解釈しようとせず、その日は研究のことを考えずに過ごしていい。そのうえで、数日置いてから査読レポートを開き直します。
そのときに自分に向ける問いは決まっています。なぜリジェクトされたのか、つまり査読者は何を問題視したか。そのうち、自分でも気になっていた弱点はどれか。改善可能なものと、今回のスコープ外のものはどう分かれるか。この三つを順に確認していくと、リジェクトの中身を冷静に見られるようになります。
同僚や指導教員と読み合わせるのも有効です。第三者の目線が入ると、「致命的だと思っていた指摘」が実はそれほどでもなかったり、逆にこちらが軽視していた指摘が根本問題だったりすることに気づけます。コメントを分析し終えたら、具体的な改善項目をリスト化します。方法論の見直し、追加分析、文献レビューの拡充、論理構成の調整――全部に応える必要はありませんが、価値のある指摘は積極的に取り込みます。リジェクト後の修正を経て、最初の版よりはるかに良い論文になることは、実はよくあります。コメントの分類と優先順位のつけ方は 査読コメントへの対応 に書いたやり方がそのまま使えます。
投稿先を選び直す
再投稿のときに大事なのは、単純に別の雑誌に送るのではなく、どの雑誌なら今の論文が正当に評価されるかを考え直すことです。前回のリジェクト理由が「スコープ不一致」なら、よりフィットする雑誌を探す。「新規性不足」なら、より専門的な雑誌や応用系の雑誌のほうが合うこともあります。スコープに合わない場所に何度送り直しても、結果は変わりません。
同じ研究でも、見せ方次第で違う顔を見せます。投稿先が変われば、イントロの強調点、結論の書き方、タイトルの言葉選びも調整の対象になります。再投稿は「別の雑誌に同じ原稿を送ること」ではなく、前回の査読で明らかになった課題を可能なかぎり解決し、新しい投稿先の特性に合わせて論文を調整する作業です。この手間をかけられるかどうかで、次の結果が決まります。投稿先の選び方そのものは 論文投稿プロセス に書いたとおりで、リジェクトのあとこそ、あの視点をもう一度使う場面です。
一本に賭けない構え
優れた研究者は、ほぼ例外なく多くのリジェクトを経験しています。学会で会う有名な研究者ほど、酒の席で「あの論文、最初に出した雑誌では落ちたんだよ」という話をしてくれることが多くて、研究者人生の大半はリジェクトとともに進むのだと、何度も思い知らされます。
一本の論文のリジェクトに心を持っていかれすぎないためには、複数のプロジェクトを並行して走らせておくのが効きます。ある研究がリジェクトされても、別の研究は進んでいる。「全リソースを一本に賭ける」構造だと、査読結果への依存度が高くなりすぎます。査読者の指摘から、思いもよらなかった次のテーマが見えてくることもあって、リジェクトされた日を「次のテーマの種をもらった日」として捉え直せると、結果との付き合い方はずいぶん楽になります。
査読結果が出る日も、その前後の日も、生活のリズムが変わらない人ほど、研究者として長く走れるというのが、僕がこれまで観察してきた印象です。結果に振り回されない土台は、研究以外の場所にあります(第4部:趣味・休息との付き合い方)。
関連セクション:
- 査読コメントへの対応 - コメントの読み方と返答書
- 論文投稿プロセス - 投稿先の選び方
- 研究を社会に伝える - 採択後の発信